京法メモ

京都大学法科大学院を卒業しました。令和5年司法試験に合格しました。

R4京大ロー刑法メモ

諸事情によりR4京大ローの刑法を検討する機会があったのでメモとして置いておきます。あってるかは保証できませんので参考程度に。自分ならこんなこと書くな―という程度のやつです。

 

第一問

・乙の殺人罪
成人(不作為)を利用した間接正犯 (単独正犯の不作為犯はさすがに甲に作為義務無いかな インスリンの投与を指示する作為義務までは厳しいか。シャクティパットみたいに自己の管理下に置いたわけでは無いし。あと間接正犯にしなくても不作為を指示した行為で普通の正犯にする可能性もあるんかな)
 

① 成人について道具と考えるのは子供相手よりも難しいことを踏まえつつ、Aが妄信し言いなり状態であること+𠮟責や子の命の不安から精神的に追い詰められた結果行為制御能力を喪失したとして道具性肯定、道具であるAを利用した乙の行為(Aに指示しインスリンを投与させなかったこと?)に間接正犯の実行行為性を肯定。(ここでそもそもAの不作為について作為との構成要件的同価値性の話もする必要があるかも 母親、結果支配とかで簡単に肯定できるけど)

故意(死ぬと言われていることを知ってる→死ぬかも→認識あり)、結果はあるので殺人罪(間接正犯)の構成要件は因果関係以外OK 
 ※因果関係については甲とA(乙が利用している)が共同した不作為により生じた結果なので共犯のとこでさらっと書く?各々がインスリン投与したら十中八九生きてたと言えそうなので乙Aそれぞれでも因果関係肯定できるのかもしれない。


・甲の保護責任者不保護致死罪

甲は殺人の故意はない →甲は保護責任者不保護致死罪が成立する余地があるので検討
保護責任者の地位はあり(親 Aの一定の支配)、故意OK 不保護(インスリン投与しない)OK 結果もOK
※因果関係については↑と同じ


・甲乙の共犯関係について
 ②殺人罪の故意と保護責任者不保護致死との間の共同正犯なので部分的犯罪共同説によると重なり合いの限度で共同正犯となる 乙は保護責任者ではないので65条の身分犯と共犯の議論も一応いるのかな 保護責任者不保護致死は加重類型ではないから1項でOKって話?ここよくわからん 
ただそもそも故意が異なってて非身分者の方が大きい場合(本件)はどっちにしろ乙に殺人罪が成立してるから、65条無視して部分的犯罪共同説により保護責任者不保護致死罪の限度で共同正犯になると言ってもそれほど問題は無い?

③共謀 乙は甲に直接連絡しておらずAに連絡しているだけなので微妙、Aも共犯なら順次共謀として簡単に認定できるが、Aは不成立なので、犯罪不成立の第三者を介在した順次共謀? Aは適法行為の期待可能性(責任)が欠けているだけなので乙→(A)→Bの順次共謀でいいか。

基づく実行行為  インスリンを投与しないこと
正犯性(or正犯意思or重大な寄与) 乙のA利用行為の役割・寄与度も大きいし、乙の役割も大きいので両者ともOK
因果関係と結果OK


罪責 乙は殺人罪の間接正犯、甲は保護責任者不保護致死罪が成立しこれらは後者の限度で共同正犯となる

※現実の行為としては甲とAが共同してインスリン投与しないという不作為やけど、法的には「Aを利用した乙」と甲の共同正犯になるから答案構成がだいぶ難しい。共犯の話をどう組み合わせるのかわからない。各々が全構成要件認められるのであれば単独っぽく二つ並べた後に共犯ありました―て感じで書く?


①~③が論点っぽいところ

 


第二問

・ポシェット物色行為に窃盗未遂罪の可能性 
① 見えなくなった時点でポシェットに対するXの占有はあるか
 事実的支配と占有意思から総合的に判断  距離とかどれくらい離れたとかわからんけど、見えなくなった瞬間であれば戻ってくる可能性も十分にあり、それほど時間とか場所も離れてないと判断すると事実的支配肯定 占有意思はほぼ無いけど包括的なのは一応ある
→占有肯定
② 着手 物色時点で持ちさられる現実的危険ある
故意・不法領得の意思あり
→窃盗未遂罪肯定


・撮影は特別法あるみたいやけど刑法上は利益窃盗で不可罰か 特に思いつかない


・暗証番号の取得と二項強盗
 反抗抑圧程度の脅迫 故意 不法領得の意思はOK
③暗証番号の取得が利益の移転といえるか。甲はカードをすでに取得していることも考慮すると(この部分は窃盗既遂か)、暗証番号さえあれば払い戻しを受ける地位に立つことができ、利益移転の具体性確実性が認められる
 →二項強盗既遂罪(カードの窃盗既遂は吸収されて包括一罪)


・B口座からA口座への送金
強盗罪の成立
 暴行脅迫要件、故意、不法領得の意思はOK
④プチ論点として1項か2項か 現物を取得していないので厳密には利益強盗で2項、又は現金の交付と同視して1項で処理


・縛り上げる行為 一定時間の物理的拘束があるので逮捕

・逮捕緊縛行為が継続中のスマホ奪取と財産犯  
⑤典型論点としてある暴行脅迫後の奪取意思が生まれた場合には、新たな暴行が必要であるが、抑圧状態を維持する程度で足りるという話の発展型。しばりつけている行為が「(新たな)暴行」にあたるか
→理由付けは微妙やけど、逮捕監禁は継続的に侵害が発生していると捉え、常に(新たな)暴行が行われていると評価すれば1項強盗罪
 否定すれば(新たな)暴行は無く窃盗罪
⑥通報を防ぐ目的の奪取は不法領得の意思(特に利用処分意思)が無いのではないかという問題が生じ得る その物の効用を享受しているとは言えないので  ただ本件は最終文が付属してるから大丈夫かな

・ATMでの引き出し  
⑦銀行に対する窃盗未遂+不能犯の検討 具体的危険説 修正された客観的危険説どちらでも肯定


①から⑦が論証っぽいところ


1.物色の窃盗未遂、2.暗証番号の二項強盗(窃盗既遂が吸収され包括一罪)、3.口座送金で1項強盗(2項も可)、4.スマホ奪取で1項強盗罪(逮捕が吸収されて包括一罪?)、5.銀行に対する窃盗未遂 

これらの併合罪?? もっと包括一罪になるのかもしれんけど一応は1.ポシェット、2.Aの口座から払戻す地位、3.50万、4.スマホ、5.銀行の金と個別の法益が違うから併合でもいい気がしてる

 

以下、問題見たときに思い付いた参考裁判例

 

題材っぽい判例と裁判例

インスリン不投与の間接正犯と情を一部知る者との共同正犯

R2 8 24最高裁  (原審とこの論点については法学教室 2020年2月号 (No. 473) [2020] 有斐閣 刑法事例の歩き方 94pがわかりやすいけどそもそも論点として難しいのでよくわからない)


緊縛後の奪取はこれを想定? 

東京高判平成 20・3・19(高刑集 61 巻1 号 1 頁)(法学教室 2016年7月号 (No. 430) [2016] 有斐閣  71p   橋爪各論悩みどころ)「新たに財物取得の意思を生じ,前記暴行・脅迫により反抗が抑圧されている状態に乗じて財物を取得した場合において,強盗罪が成立するには,新たな暴行・脅迫と評価できる行為が必要であると解されるが,本件のように被害者が緊縛された状態にあり,実質的には暴行・脅迫が継続していると認められる場合には,新たな暴行・脅迫がなくとも,これに乗じて財物を取得すれば,強盗罪が成立すると解すべきである。すなわち,緊縛状態の継続は,それ自体は,厳密には暴行・脅迫には当たらないとしても,逮捕監禁行為には当たりうるものであって,被告人において,この緊縛状態を解消しない限り,違法な自由侵害状態に乗じた財物の取得は,強盗罪に当たるというべきなのである」 」


暗証番号の強取

東京高判平成21 . 11 . 16判時2103号158頁 「キャッシュカードを窃取した犯人が被害者からその暗証番号を聞き出した場合には,犯人は,被害者の預貯金債権そのものを取得するわけではないものの, 同キャッシュカードとその暗証番号を用いて,事実上, AflMを通して当該預貯金口座から預貯金の払戻しを受け得る地位という財産上の利益を得たものというべきである。」