京法メモ

京都大学法科大学院を卒業しました。令和5年司法試験に合格しました。

刑法事例演習教材50番(乙の罪責)

刑法事例演習教材50番の乙の罪責に関して

結論としては262p右下から263p左上のブロックについては、従来の有力説(橋爪各論悩みどころ64p)のみで検討されており、令和2年判例を踏まえると結論が異なるのではないかという話です。

 

 

 

令和2年の判例は、先行する暴行としてAらの暴行(①とする)が存在し、後行する暴行としてAらの暴行(②)+被告人の暴行(③)が存在していた(②と③は共謀に基づき共同で行われた)事例。

  原審は、①と②③は同一の機会に行われており、①にはもちろん、②③の共同暴行には第六肋骨骨折が生じる危険もあったし、上口唇切創が生じる危険もあったとして、被告人に両方の傷害について同時障害の特例を適用した(つまり②と③は一体評価)。

 これに対して最高裁は、あくまで被告人の暴行(③)に上記両傷害が生じる危険があったことが必要として、被告人の暴行(③)には、肋骨骨折を生じさせる危険はあったものの上口唇切創を生じさせる危険はなく、後者について同時傷害の特例を適用できないとしている。

  そうすると、同時傷害の場面での傷害結果を生じさせる危険があるかどうかの判断は、ある部分の暴行が共同正犯になるからといってその共同暴行に結果発生の危険が認められればいいわけではなく、あくまで個人の暴行単体で結果発生の危険があるかを見る必要がある。

 

本件では先行する暴行につき甲乙に共謀があり、乙もその部分につき共犯として責任は負うが、それ以降の丙の暴行について甲乙丙などに共犯は成立しない以上、同時傷害が問題になる。

先行する暴行として、甲の頭部及び腹部に対する暴行(i)、乙の腹部に対する暴行(ii)が存在する。後行する暴行として丙の頭部に対する暴行(iii)がある(丁は省略)。

頭部傷害にもとづく死亡が(i)から生じたのか(iii)から生じたのかが不明な以上、甲の(i)のみで傷害致死の因果関係は認められず甲一人だけでは致死を帰責出来ないことが前提。

 そうすると同時傷害が問題となり、(i)と(iii)には頭部傷害により死亡結果を生じさせる危険があり、同一の機会に行われたので、甲と丙間には同時傷害の特例が適用される結果因果関係が推定され被告人側の反証を要する。

ここで乙の責任を考えると、確かに乙は先行暴行において甲と共謀し実行しているので、その部分については甲との共同正犯としての責任を負う。しかし同時傷害の特例を適用し、その要件としての傷害結果発生の危険性を判断する場面において、上述した通り令和2年判例が、共同暴行として危険性を評価する原審を否定し個々人の暴行から傷害結果生じる危険があったかを見ることを要求しているとすれば、腹部にしか暴行を加えていない乙に傷害致死の結果を生じさせる危険は認められないから、同時傷害の特例を適用できない。

 

R2の場合は

単独行為(Aら)→共同行為(Aら+被告人)という順番だったのが

本件では

共同行為(甲+乙)→単独行為(丙)となっており順番が逆なことでもしかしたら何か変わるのかもしれないがよく分からない。。。

 

あくまで個人の暴行の危険を見るのであれば、甲にも乙にも丙にも単独で結果を生じさせる危険性のある暴行が要求され、甲乙と丙が同一の機会といえる必要がある。

そうすると、令和2年判例に従うと乙には同時傷害の特例が適用されず、共犯として責任を負うのもあくまで本来の甲の暴行のみ(死亡については利益原則により帰責されない)であり、その後同時傷害で拡張された甲の罪責部分(反証ない限り致死まで全部)については責任を問えない。乙に傷害致死罪は成立せず、丁と同様に腹部に対する打撲の傷害罪のみが成立しうる(※)。と考えました。

 

見た人いたら直接でもLINEでもコメントでもDMでもいいので意見もらえると嬉しいです。

 

司法試験受験生の同期にこの話をすると、本設例には令和2年の射程は及ばず、むしろ上記結論(※)は誤っているという意見に接しました。結局議論は平行線で固まりませんでした。